こんにちは🤗
先日救急病院で一緒に働いていた看護師さんとご飯を食べる機会がありました。
その時に動物医療について、動物の飼い方について話し合った中で思うところがあったので書きたいと思います。
その方は昔から犬や猫を何頭も飼ってきていて、チョー動物LOVE、動物がいないと生きていけない!!みたいな方です😊
また保護活動にも参加していたりとまさに動物とともに人生を歩んでいる、その代表みたいな人。
何を話ししてたかって言うと、自分の犬に抗癌剤や輸血を行ったことについて今どう思っているかって話なんですよね。
その方は当初は院長一人の小さな動物病院に勤めていました。
まさに街の動物病院と言った感じで、高度な機械はありませんが動物と飼い主さんに寄り添う医療を行い、動物保護なども積極的に行っていたようです。
そのような病院で最初の数年間勤務し、その後救急病院に転職しました。
救急病院と街の動物病院は動物を助けることは同じであっても、勤務の仕方が全くと言っていいほど違います。
私たちが勤務していた救急の動物病院は基本的には紹介制です。
街の動物病院で手に負えなくなった患者さんたちがその病院から紹介されて救急病院を受診されます。
もちろん夜間などは紹介などなくても来院可能です。
人間の病院でも街のクリニックと大きな総合病院がありますよね。
そんな感じで捉えていただければいいと思います。
ですのでフィラリアなどの予防やちょっとしたことで来院する、いわゆる「かかりつけ」にはならない病院なんです。
もちろん重症な子は改善するまでは何回か通ってもらう事もありますが、症状が改善した後はかかりつけの動物病院へお返しする形になります。
基本はその場限りのお付き合いになってしまうし、生死を彷徨っている子たちが来るので治療内容も当然シビアになってきます。
その動物のその場の病気しか見ていないので、飼い主さんとの関係とか家での今までの様子とか、どんな考えを持ってその子を飼われているかと言う事が全くわからないんです。
教科書的には正しい治療であっても本当にその動物に必要なのかが判断しづらい事が多々ありました。
例えば
15歳の食が細くて痩せてきている犬の胆嚢破裂を手術すべきなのか?
18歳の猫の発作に対して原因を追及するために麻酔をかけてMRIを撮るべきなのか?
そして腫瘍の治療において当たり前と思われている抗癌剤の治療は行うべきなのかどうか・・・
もし自分がずっと子犬や子猫から見ていた場合、私ならそのほとんどは「やりすぎ」と感じてしまうかもしれないと思いました。
人間も動物も誰もが寿命というものがあります。
そして最期は誰もが穏やかに過ごしたいといった希望があると思います。
長い付き合いがあれば動物や飼い主さんの性格も分かり合えますし、治療をした方がいいのか、しない方が幸せなのかの相談もゆっくりできるでしょう。
しかし救急の場合はそこら辺の信頼関係が築かれていないため、何もしない方が幸せであったとしてもそれは「諦め」と捉えられ、飼い主さんが逆に落ち込んでしまう可能性も出てきます。
そこが本当に難しかった。
さて、看護師さんの話に戻します。
昔から動物を飼っていて当然何頭も見送ってきた経験のある動物関係者でさえも悩んでしまうというお話です。
救急で働く前は動物はなるようになるし、自然のままで、といった見送り方をしていたようです。
そんな彼女の愛犬が昨年亡くなりました。
その子は膝の手術をした後にリンパ腫と診断され、抗癌剤を行ない、最終的には貧血になったので輸血まで行って亡くなりました。
現在の獣医学の中ではリンパ腫には抗癌剤の使用が第一選択です。
治療自体は間違っていません。
しかし彼女は後悔しているとのことでした。
彼女はそれまでも何頭もの犬を見送っておりましたが、その何もが最後に積極的な治療は行わず自然に近い形で見送ったとのことでした。
しかし今回の子はリンパ腫という病気の性格もあって抗癌剤を使用しました。
これがやりすぎたのかな・・・と言っていました。
抗癌剤の是非は多々あると思います。
もちろんエビデンス的には寿命は伸びると言われていますし、現時点での腫瘍の第一選択薬になっている事は確かです。
しかし私は使わないことの方が多いです。
なぜか?
まず抗癌剤を用いても伸びる寿命は数ヶ月のことが多いです。
完治はほとんどしません。
そして何よりも辛いのが、動物が副作用で苦しむことです。
人間は意思を持って抗癌剤治療を行います。
そのため副作用が出ても自分で覚悟しているのでいいと思います。
でも動物は違います、
訳もわからず毎週血を抜かれ注射を打たれる。
そしてなぜか吐いたり下痢をしたり、発熱があったり体が辛くなったり。
これは自分ではどうしようもありません。
2、3歳のまだ若い子は抗癌剤治療を行う必要性を感じていますが、10歳前後ではその代償がキツすぎる気がします。
個人的には「人間のエゴ」なんじゃないのかな、と思っています。
そして一番の問題点は
「抗癌剤は一度始めると終われない」
というところにあるんだと思います。
もちろん途中でやめてもいいんです。
副作用が激しい、効果がイマイチな場合は途中で止めればいいんです。
でもね、副作用が激しい場合は副作用を止める薬を処方され「頑張りましょう」って言われるんです。
効果がイマイチな場合は「別の抗癌剤に変えて頑張りましょう」と言われるんです。
心情的にやめられなくなるんです。
そして末期的になって貧血が出てくると「輸血」と言われるんです。
輸血は本来なら救済処置。
輸血をすることによってその場が助かればその後の治療につながる時に行うものです。
しかし人間もそうですが癌治療で行っている輸血は延命処置と言ってもいいと思います。
しかも輸血を行うと副反応も出てしまう。
このような理由もあり私は抗癌剤を勧めていないんです。
さて、なぜ今まで自然のままを選んできた彼女がこのような治療を選んだのか?
それは「置かれた環境がそうさせた」んだと思ってます。
彼女は現在救急病院に勤務しています。
そこでは救急疾患が多いため、基本的には全力でやれる事はやる、が基本となっています。
当然そのような考えの獣医が集まっています。
この考えは素晴らしいものですが、腫瘍に関しては私個人としてはそれだけではいけない気がするんです。
現在の獣医業界でなんとなく感じる問題として、高齢の子の手術や抗癌剤などの積極的な治療を行わないことをあまり良くないと思う風潮があるように感じます。
実際に違う病院の獣医師にですが「その選択は逃げだよね」とも言われた事もありました。
でも命に勝ちも負けも、逃げもないと思うんです。
飼い主さんと動物にとって何が一番いい治療なのか?
これを考えてあげるだけ。
それには正しい診断が必要ですし治療に関しても正しい知識が必要です。
それを踏まえた上で色々決定してあげる必要があります。
このブログをお読みの方でもご自分の犬猫の治療に関して悩んでいる方も多いと思います。
その際ネットやSNSなどで色々な病院や治療を比べてさらに悩んでしまっているのではないでしょうか。
動物の治療を行なっていくにあたり、一番大切なものは
「飼い主さんがこの子達をどうしてあげたいか」
です。
もちろん飼い主さんに正しい治療の判断はできないと思います。
でも動物たちにどうなって欲しい、どうあって欲しいという核は持たなければいけないと思います。
その想いをかかりつけの先生と共有できるのであれば高度な医療など必要ないと思っていますし、日頃診ている先生の元で最期を迎える方が幸せだと考えています。
もちろん私たち獣医師はそのご期待に応えられるように日々勉強しなければいけませんが。
近年の動物医療は「高度な治療=良い治療」と思われがちですが、街の動物病院と紹介病院はやはり立場が全く異なります。
使い分け、棲み分けをしないと結局のところ動物と飼い主さんが迷ってしまうんだな・・・
と改めて思いました。
すみません、今日は少し重めのテーマでした😅
コメント
本当にそうですね、なんでも話せる獣医さんは貴重です。でないと患者も動物も不幸になります。私は今恵まれています、周りの方々も力になってくれてるねと言われています。最後までその子にあった治療をしてくださる事が一番の幸せだと思います
そのためには飼い主さんも動物達に何をしてあげたいか、どうしてあって欲しいかを日頃から考える必要がありますよね。